渋谷区
プレスマンユニオン編集部
千駄ヶ谷富士(鳩森八幡神社)
東京都渋谷区千駄ヶ谷1丁目にある鳩森八幡神社(はとのもりはちまんじんじゃ/正式名は八幡神社)の境内に築かれている富士講の富士塚が千駄ヶ谷富士。寛政元年(1789年)築造という歴史ある富士塚で、都内に現存する最古の富士塚として東京都の有形民俗文化財に指定。「江戸八富士」のひとつにも数えられています。
都内にそのままの場所に現存する最古の富士塚
山裾には鳩森八幡神社境内社の浅間神社里宮が鎮座し、また7合目の洞窟には富士講の指導者として名高い食行身禄(じきぎょうみろく)の像、山頂には奥宮、金明水などが配され、まさにミニ富士。
江戸時代中期以降、富士講は隆盛し、江戸八百八町それぞれに講中が組織され、江戸八百八講と呼ばれるまでになっていました。
庶民は、毎年富士山に登拝することが叶わなかったので、富士塚を築き、この富士塚に登拝すれば、本物の富士山に登ったのと同じ御利益があるとされたのです。
高さ6m、直径25mほどで、千駄ヶ谷富士の山頂部に置かれた溶岩も富士山から運んだもの。
土の露出部分には熊笹が植えられて崩落を防いでいますが、関東大震災で崩れたため、その後修築されています。
築造年代が明らかなのは、富士塚の5合目に立つ石碑の銘文から。
富士塚の前にある池は、築造に際して土を採掘した凹地を利用したもの。
この古墳を思わせるような円墳状の盛り土と前方の池というスタイルは、江戸時代築造の富士塚の基本様式となっていて、千駄ヶ谷富士はそれを今に伝える貴重な例となっています。
江戸で最初に築かれた富士塚は高田富士で、身禄直系の弟子とされる植木屋高田藤四郎(日行青山)が安永8年(1779年)、「冨士のうつし」として築いたものですが、その際に溶岩は相模川から船で江戸湾へ、そして神田川を遡り、揚場河岸から大八車で戸塚村まで運んでいます(高田富士は戦後、早稲田大学の校舎整備で、甘泉園公園横に移築されています)。
この高田富士を契機に、江戸界隈に多くの富士塚が築かれていますが、千駄ヶ谷富士は初期のもの。
しかも移設されていないので、往時の場所に残る現存最古の富士塚になっているのです。
千駄ヶ谷富士を築いたのは烏帽子岩講ですが、烏帽子岩は富士山の7合5勺にあり、食行身禄が入定(にゅうじょう=行者が断食の修行の後、死しても魂が永久に生き続ける状態に入ること)した地なので、食行身禄に関わりの深い講中だと推測できます。
講紋も烏帽子の形に「岩」の字を配した図柄です。
7合目洞窟に安置の食行身禄(じきぎょうみろく)の像
江戸八富士・江戸七富士
本来は、現在の早稲田大学の構内にあった高田富士と合わせ、江戸八富士と呼ばれていましたが、現在は江戸七富士に。
高田富士は、昭和38年、早稲田大学の拡張に伴って水稲荷神社とともに甘泉園公園横(新宿区西早稲田3丁目)に移っています。
とはいうものの、江古田富士など多くの富士塚は、江戸市中ではなく、その近郊の村にあるので、江戸界隈七富士というのが正しい呼び方になります。
・高田富士(甘泉園公園横)
・品川富士(品川神社境内)
・千駄ヶ谷富士(鳩森八幡神社境内)
・下谷坂本富士(小野照崎神社境内)/国の 重要有形民俗文化財「下谷坂本の富士塚」
・江古田富士(茅原浅間神社境内)/国の重要有形民俗文化財「江古田の富士塚」
・十条富士(十条冨士神社境内)
・音羽富士(護国寺境内)
・高松富士(富士浅間神社境内)
千駄ヶ谷富士(鳩森八幡神社) |
名称 |
千駄ヶ谷富士(鳩森八幡神社)/せんだがやふじ(はとのもりはちまんじんじゃ) |
所在地 |
東京都渋谷区千駄ケ谷1-1-24 |
関連HP |
鳩森八幡神社公式ホームページ |
|
電車・バスで |
JR千駄ヶ谷駅、都営国立競技場駅、東京メトロ北参道駅から徒歩5分 |
駐車場 |
周辺の有料駐車場を利用 |
問い合わせ |
八幡神社 TEL:03-3401-1284/FAX:03-3402-1363 |
掲載の内容は取材時のものです。最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。 |
この記事が気に入ったら
いいねしよう!
最新記事をお届けします。
(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});
-
多摩よこやまの道
東京都多摩市、多摩丘陵を東西に歩く尾根沿いの遊歩道が、多摩よこやまの道。武蔵の国府(府中)から眺めると横に連なっているように見えたのが横山という名の由来で、東端の多摩東公園から西端の長池公園まで全長10kmほどのロングトレイルが続いています。 途中には、古代の...
カテゴリ: 多摩市 , 東京のハイキング&ウォーキング , 歩く
-
小野路城
東京都町田市小野路町にある中世の城が、小野路城(おのじじょう)。平安時代末期の承安元年(1171年)、小山田有重(おやまだありしげ/秩父重弘の次男・秩父有重が小山田荘に住んで小山田氏を名乗る)が小山田城(町田市下小山田町の大泉寺)の支城として築城した平山城。比...
カテゴリ: 町田市 , 見る
-
須美寿島
青ヶ島(東京都青ヶ島村)から南に110kmの太平洋上にある絶海の孤島(伊豆諸島の無人島)が、須美寿島。スミスカルデラの外輪山の一部で、岩峰の先端部だけが海上に出ています。東京都に属してはいますが、所属する市町村がなく、東京都八丈支庁が管轄しています。 島の発見...
カテゴリ: 伊豆七島・小笠原 , 見る
-
鳥島
東京都八丈支庁に属する伊豆諸島の離島のひとつが、鳥島(とりしま)。特別天然記念物アホウドリの生息地としても有名な無人島で、所属市町村は未帰属(本籍の設置ができません)。鳥島カルデラの南縁に位置し、気象庁は火山活動度ランクAの活火山に指定しています。 ジョン万次...
カテゴリ: 伊豆七島・小笠原 , 見る
-
旧呑川緑地
東京都大田区大森東5丁目~大森南4丁目、昭和51年に埋め立てられた呑川の旧河道を利用した公園が、旧呑川緑地(きゅうのみかわりょくち)。東蒲中学校近く、呑川との分岐を起点に大森海岸(平和島運河)手前の呑川水門まで1.8kmにわたって緑地公園が続いています。 大森...
カテゴリ: 大田区 , 東京の公園 , 見る , 遊ぶ
-
関戸城天守台跡
東京都多摩市桜ヶ丘1丁目、聖蹟桜ヶ丘駅側からスタジオジブリのアニメ映画『耳をすませば』ゆかりの地として知られる桜ヶ丘いろは坂を上った頂上にある金比羅宮一帯が、関戸城天守台跡。一帯は城山と称され、鎌倉時代以降、眺望の良さから物見台などが置かれた場所だと推測されて...
カテゴリ: 多摩市 , 見る
-
奥多摩工業氷川工場
東京都西多摩郡奥多摩町氷川、JR青梅線・奥多摩駅の北側、日原川沿いにあるのが、奥多摩工業氷川工場。セメントの原料となる石灰石の選鉱、焼成のため、24時間体制で稼働し続ける工場で、日原川沿いで採石される石灰石を、トロッコ鉄道(奥多摩工業曳鉄線)で運び、ここで⽣⽯...
カテゴリ: 奥多摩町 , 見る
-
奥多摩むかし道
東京都西多摩郡奥多摩町、奥多摩湖のある小河内(おごうち)地区と奥多摩駅(氷川地区)を結ぶ、全長9kmの歩道が、奥多摩むかし道。明治以前には、氷川~小河内~小菅~大菩薩峠~甲府というコースで、甲州街道の裏街道の役目も果たしていた、旧青梅街道の一部です。 旧青梅街...
カテゴリ: 奥多摩町 , 東京のハイキング&ウォーキング , 歩く
-
桜ヶ丘いろは坂(『耳をすませば』の聖地)
東京都多摩市桜ヶ丘、聖蹟桜ヶ丘駅から歩いて10分、ヘアピンカーブを描くいろは坂通り途中にある階段の坂道が、いろは坂。有名な日光・いろは坂との混同を避けるため、桜ヶ丘いろは坂と呼ばれています。スタジオジブリのアニメ映画『耳をすませば』ゆかりの地としても知られてい...
カテゴリ: 多摩市 , 見る
-
ハケ下散策路
東京都国立市谷保、ヤクルト中央研究所の脇に続く散策路が、ハケ下散策路。ハケとは崖のことで、太古、多摩川が武蔵野台地を削りながら転遷した河岸段丘の崖で、崖下は湧水源になっています。ハケ下散策路脇には谷保分水が流れ、西側のママ下湧水公園まで分水沿いに歩くことができ...
カテゴリ: 国立市 , 東京のハイキング&ウォーキング