東京・板橋区の公園に数奇な運命を辿った不思議なSL「ベビーロコ号」が!

東京都板橋区、板橋区立城北交通公園にひっそりと静態保存されるSL(蒸気機関車)に注目を。1912年、プロイセン王国(ドイツ帝国)で製造された軽便鉄道(ナローゲージ)の機関車を第一次世界大戦中に有田鉄道(和歌山県)が輸入したもので、その後、数奇な運命を辿って板橋の地に「ベビーロコ号」として安住したもの。

1912年にプロイセン王国(ドイツ帝国)で製造

都営三田線・蓮根駅の東、板橋区立城北交通公園に静態保存されるSL「ベビーロコ号」。
有田鉄道が輸入したものを東武鉄道が譲り受け、ときわ台駅前で展示されていたものが、板橋区立城北交通公園に移設されたというのが、板橋に安住するまでの由来。

第一次世界対戦のさなかに輸入というその歴史には、意外なドラマが秘められています。

SL「ベビーロコ号」は、プロイセン王国(ドイツ帝国、1918年に王政廃止)時代のオーレンシュタイン・ウント・アーサー・コッペル製(Orenstein & Koppel OHG)。
1910年代に、日本国内では地方の旅客・貨物輸送や森林鉄道などで軌間762mm(2フィート6インチ)の軽便鉄道の開業がブームとなり、軽便鉄道機関車が多く輸入されていましたが、このSLもそのひとつです。

有田鉄道は木材や有田みかんの搬出用に1913年(大正2年)2月17日、有田軽便鉄道として会社を設立(6月に有田鉄道に社名変更)、1915年(大正4年)5月28日に海岸駅〜下津野駅間が開業しています。
開業時に1号機関車として輸入したのが1912製造の「ベビーロコ号」です。

もともと有田鉄道は、開業に間に合わせるようにプロイセン王国(ドイツ帝国)のアルノルト・ユンク(Arnold Jung Lokomotivfabrik)に蒸気機関車を発注していましたが、第一次世界大戦の影響で輸入出来なくなり、急遽、代用の機関車として日本国内に入荷していたオーレンシュタイン・ウント・アーサー・コッペル製を導入したもの。

ところが、ここでひとつ大きな問題が。
当初、有田鉄道は軽便鉄道で鉄道を敷設する予定でしたが、開業時にはみかん輸送(貨物輸送)などにおける国鉄との連携を考えて軌間1067mmの狭軌に変更していたため、購入した1号機関車(「ベビーロコ号」)が軽便鉄道用の軌間762mmだったため、そのまま使うことができなかったのです。

そのために車輪部分を762mmから1067mmに改変。
無理やりゲージを合わせて運用したのです。
ただし、40馬力しかなかったので、有田鉄道でどれだけ活躍したのかは定かでありません。
ちなみに、D51形蒸気機関車の馬力は、1280馬力~1565馬力で、この40馬力は軽トラ並みだったのです。

戦後、東武鉄道に転籍するも、「力不足」で即引退!

終戦直後の1946年、東武鉄道のキハ12と交換という形で有田鉄道から東武鉄道に移籍。
さらに活躍の場がと思われましたが、秩父鉄道・寄居駅から川越駅まで回送運転中、武州松山駅で車軸焼付事故が発生。
修理後、川越機関区で馬力不足を理由に保管が決まってしまいます。

1952年11月には廃車となり、東武東上線・ときわ台駅前に「ベビーロコ号」の名が付けられて静態保存されていましたが、その後、板橋区立城北交通公園に移管されています。
「Orenstein & Koppel 5885」なので、頸城鉄道2号機関車(1911年製造、大丸組が国鉄大井工場の造成工事や品川駅周辺の埋め立て工事のために購入)が「Orenstein & Koppel 5044」なので、その兄弟ということになります。
「Orenstein & Koppel 5044」に関しては、1972年〜1976年に「おとぎ列車」時代の西武山口線で、日本の鉄道100周年を機にSL導入という目的で「謙信号」として運転されていたという歴史があります。
頸城鉄道も「おとぎ列車」時代の西武山口線もともに軽便鉄道(ナローゲージ)なので、活躍できたもの。
無理に狭軌用に改造されたことで、パワー不足で利用価値がないとされ、東武鉄道移籍後は実績もなく、静態保存の道を歩んでいるのです。

実は、軽便鉄道のブームを反映してオーレンシュタイン・ウント・アーサー・コッペル製の蒸気機関車は数多く輸入されていますが、実際に残存するのは大川鉄道4号機関車(西日本鉄道4号機関車/久留米市の「ポッポ汽車のプロムナード」にポッポ汽車として静態保存)、井笠鉄道1号機関車(「笠岡市井笠鉄道記念館」に静態保存)、頸城鉄道2号機関車(新潟県上越市「くびき野レールパーク」に静態保存)など数例を数えるのみ。

数奇な運命をたどりながらも生き残った貴重な蒸気機関車です。

ちなみに「ベビーロコ」は、ベビーのような、ロコモーション(蒸気機関車=SL/steam locomotive)の意です。

東京・板橋区の公園に数奇な運命を辿った不思議なSL「ベビーロコ号」が!
所在地 東京都板橋区坂下2-19-1
場所 板橋区立城北交通公園
関連HP 板橋区公式ホームページ
電車・バスで 都営地下鉄蓮根駅から徒歩5分
駐車場 なし
問い合わせ 城北交通公園 TEL:03-3969-9422
掲載の内容は取材時のものです。最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。

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